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zoom RSS ショート短編 第4頁 「夢のようなパン」

<<   作成日時 : 2008/10/10 22:03   >>

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 る町のおしゃれなパン屋さん。そのパン屋に入ったお客さんは、お店の中を何度もきょろきょろ見まわすことになります。お店の壁には壁と同じ色の棚が三段付いていて、棚の入ったガラス越しにおいしそうなパンが行儀よく、びっしりと並んでいるのが見られるからです。お客さんはちょっと笑いかけたような顔でパンを眺めて、その顔のままお客さん同士で見合ってしまって恥ずかしそうな様子になることもあります。そんなお店にやって来るお客さんの中で、一番嬉しそうにしているのは、決まって一人の小さな男の子です。毎日のように、もしかすると本当に毎日、お母さんと一緒にパン屋さんにやって来ては、二人でガラス越しにパンを眺めていきました。

 その男の子は、パンが大好きでした。お店の明かりに照らされたパンの優しそうな光を鼻いっぱいに満たすように吸い込めば吸い込むほど、パンの香りは頭をとろけさせます。滑らかな砂浜に差し込む夕日を全て塗り重ねたようにもこもこした山吹色、眠りを包む気持ち良さに触れているように柔らかな手応え歯応え、そしてパンの形は触るのももったいないくらいに素晴らしいのです。それは確かに、パンにも色々あります。でも、男の子を惹きつけてやまない幾つものパンは、そんなふうに訴えかけてくるのでした。

 男の子のお父さんお母さんがよく読んでくれる絵本には、それはおいしそうなパンがたくさん並んでいました。ちょっとのお出かけの帰りや、辛いことがあった時には必ず男の子とお父さんお母さんはそのパン屋さんにやって来て、必ず同じパンを買って帰りました。家に帰って男の子はテーブルにそのパンを並べて、この世で一番柔らかくて深く、濃い甘さのする色とりどりのパンを喜びいっぱいにほおばるのでした。パンを食べるちょうどその瞬間が、男の子にとって何より幸せでした。

 ある日、男の子はお母さんお父さんに連れられて大きな街へやって来ました。男の子の町には無いくらいの大きな建物に入って少し歩くと、数えきれないほどのパンの絵が壁に描いてあるお店に着きました。お父さんお母さんは言いました。
「今日は、パンを好きなだけ食べていいよ。」
男の子は大喜びです。大好きなパンを好きなだけプレゼントされるなんて、今日はクリスマスと誕生日が一緒に来たのかしらと思うくらいでした。

 ところが、そのお店の中で、男の子はたくさんのパンがあまりにおいしそうで嬉しくて、どうしたらいいのか分からなくなってしまいました。頭の中が夢のようにおいしいパンでいっぱいになってはちきれそうになっていたのです。夢にまで見たその夢が目の前に現れると、戸惑ってしまうものなのでしょう。男の子は、ようやく一つのパンを一口ほおばりました。風船から空気が抜けるように、男の子の頭からはパンの夢が抜けて、男の子は首を傾げました。大きくなりすぎた夢に、本物が追い付かなくなっていたのです。

 お母さんお父さんは、いつもと違う様子の男の子を見て不思議そうでした。でも、男の子はすぐに満面の笑顔になって、
「おいしい!」
と大きな声で言いました。もう男の子は止まりません。パンがその欠片すらすっかり消えてしまうまで、パンをおいしく食べ続けました。

 男の子は、それからもパンが大好きです。たとえ夢が大きくなり過ぎても、何があっても、本当に好きなものは好きなのです。 

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コメント(1件)

内 容 ニックネーム/日時
パン=dream…18禁だね(笑)
あき
2008/11/27 00:18

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